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「ネット上での触覚の伝搬」に成功したASMR動画YouTuberたちと癒やしの革命

ASMRという動画のカテゴリがあることを最近知った。
音フェチ動画という意味らしく、リアルな音で耳かきを疑似体験する動画もあれば、耳を舐めてもうら音でいかがわしい体験をするものまであり、その目的や嗜好は幅広い。

 

音による癒やしやエロといえば、これまでにも催眠音声やシチュエーションボイスなどの存在は知っていたが、上級者向けのジャンルだと決め込んで切り捨てていた。
しかし、最近の耳かきASMR動画を視聴したところ、本当に耳かきされているような感覚があったので、その第一印象は、「あぁ〜癒やされるわ〜」を通り越して、まず「!?」という驚きだった。驚きのあまり、一旦イヤホンを外してイヤホンが擦れた音なのかどうか確認したほどだ。
 
良質な耳かきASMR動画をインナーイヤホンで音量大で聞くと、耳の奥でゴソッという音がしたときに、耳の穴の皮膚が錯覚を起こし、本当に耳の中を触られているような感覚が起こることがある。
この「擬似的な触覚」とでも言う効果により、鳥肌が立ったり、背筋がゾクゾクしたりといった身体的反応が簡単に起こる。
 
4000人以上の視聴者が同時に耳かきされ、快楽のあまり語彙を失っている様子が確認できる。34分10秒くらいから始まる指を使った耳かきが大変良い。
 
また、実際に耳かきをされると眠くなるが、同じように、睡眠導入を主眼においたASMR動画をしばらく視聴していると、頭がぼーっとしてきて、睡眠導入に抜群の効果がある。最近は毎日寝るときには欠かせない。
睡眠導入に視聴している最近のお気に入りのリラックス系のASMR動画。最初のブラシ音は本当に耳に何かが擦れているような感覚を得られる。
 
このような効果は、耳の近くで鳴る音や囁き声が、その音の正体の実在性や触覚を本物と錯覚させ、脳がもたらす反応を一段階上のレベルのものへと引き上げている結果であると考えられる。
おそらく、ASMR動画視聴者の放つオキシトシンの量を測定すれば、ASMR動画のもたらす癒やしの優位性の大きさを科学的にも実証できるだろう。
 
 
 
これがなぜ革命的なのか。
それは、触覚(触られている感じ)をインターネット上で伝搬し、複製することに成功しているからだ。
触覚の伝搬や複製は、五感の中では最も実現が難しい。一般人が普通に使えるレベルの触覚伝搬技術の実現は、電脳世界の到来まで待たなければならないと理解していた。しかし、その取っ掛かりが、すでにASMR動画で達成されているのだ。
 
もちろん、今はまだ完全な触覚の伝搬とは程遠い。「耳の至近距離で鳴る音」という限定的な範囲について、かろうじて触覚を錯覚させているに過ぎない。(具体的には、耳かき、耳舐め、耳への吐息、耳を擦ったり密閉されたりすることくらいしか錯覚を起こすことができない。)
しかし、むしろ興味深いのは、錯覚という方法を用いることで絶対不可能と思われていたことが意外とそうでもなかったという可能性の転換が起きたことである。もし電脳世界を使わずに触覚を伝搬させようと思ったら、体中の皮膚を覆うようなデバイスが必須で、様々な感触に対応するために様々な運動と圧力を制御しなければならない。そんな複雑な装置は想像することすら難しい。しかし錯覚をうまく使えば、脳の認知自体を変換するので大掛かりなハードウェアは必要はなく、可能性が一歩大きく開ける。
 
最近ではVRという視覚の革命が起きた。実際に体験してわかったことは、視覚のリアリティを高めると、脳が錯覚を起こして視覚以上の反応が得られることだ。例えば高いビルの上で綱渡りをすると、脳がそこにいると錯覚して、実際に足がガクガク震え始めるなどの身体的反応が起こる。
VRは所詮画面が立体的になるだけと思っていたのに、実際にやってみると思ってもみない体感が得られる。
 
このような錯覚的な二次的な効果みたいなものが、他にももっとあるかもしれない。
例えば、VRで長時間その世界にいれば、脳の機能の一部がVR空間の方を実世界と錯覚し、理性的な認知に反して、VR空間内のキャラクターに対する愛着が無意識的な作用により増強されたりする可能性がある。
 
あるいは、意図的に錯覚的感覚が生じるような、いわば身体ハック的な方向性の研究がもっと進むかもしれない。
ASMR動画の擬似的触覚とは、音をこよなく愛する人たちが手探りで見つけ出した身体ハックの成功例の1つにすぎない。今後はVRとの組み合わせによって、未知の身体ハックを利用した新たな領域の癒やしや異次元レベルのエロコンテンツが開拓されることが期待できる。